七階。

中央線高架のふもとで本を読む、夢を見る。

いったい私は夢をみたいのか生き延びたいのか/今日マチ子『もものききかじり』

美しいもの、光るような刹那、空想が好き。

そんな自分だから、願わくばいつまでも夢を見ていたいと思う。

生活、と聞くと、所帯じみるのが嫌とか、そんな反抗的な気持ちがすぐに浮かんできてしまう。

会社勤めもあんまり好きじゃない。調子がいい時は良い(気がする)が、基本的に、毎日同じ場所に行って、同じ人達と顔を合わせるのは性に合わない。

それでも遅刻しない、挨拶をする、等の最低限のことはやっているから偉いと思う。(そんなに威張ることでもない。)

いずれ老いさらばえる身ではあるけれど、それでも心の芯の部分にはいつも結晶のような硬質なものを持っていたいと思っている。

 

先日読んだ今日マチ子『もものききかじり』がとてもよかった。 

hanatsubaki.shiseidogroup.jp

 

主人公の「もも」は26歳。週3回派遣社員として働きながら、大好きな演劇を続けている。好きだった恋人には結婚を切り出したら別れを告げられてしまった。

年代としてもちょうど同じくらい。

ももの悩みは私の悩みでもある。ももはこう悩む。

 

夢みるだけならお金はいらない

でも生きていくためにはお金がいる

いったいわたしは夢をみたいのか生き延びたいのか――

 

生きていくためにはお金がいる、という言葉は重い。

生き延びる、という言葉はもっと重い。

私も毎日寝て、起きて、本を読んで、散歩をして、美しい空想の中でずっと生きていたいと思うけれども、それは難しい。

なぜなら、生きていくためにはお金がいるからだ。

そして、生まれてしまったからには生き延びなければならないからだ。

それがどんなに理不尽だと思っても。

 

『もものききかじり』の世界は滲んだような美しい色彩が重ねられている。(今日マチ子さんのフルカラーが拝めるのは幸甚だ。)

理不尽に生き延びることが求められている世界でも、大好きなものは存在するし、ふと目を遣れば美しい色彩に満ちている。

ももの周りには、魅力的な女性が複数人登場する。

ももが所属する劇団の演出家、柿沼さん。

クールな看板女優の泉さん。

同居人の美女、栗山さん。

 

双子のシングルマザー柿沼さん。

恋愛対象が女性の泉さん。

恋人は生活必需品、栗山さん。

 

超多忙な柿沼さんが小説を書くのにハマって毎朝5時に起きてガリガリ書いていたり、

泉さんが親と喧嘩をしてももの家に転がりこんできたり、栗山さんが男と別れた日は決まって肉を焼いたり。(ももと泉さんと栗山さんの三人生活が個人的にはとても羨ましい、楽しそう。)彼女たちは生き生きとして楽しそうだ。そして、彼女たちの輪郭を彩る世界は美しい色に満ちている。

 

私も悩んだときは、ただただ世界に目を向けてみたいと思う。

そこに少しでも美しい何かを見いだせたなら、夢でも現実でもなく、ただここに存在するだけの自分が救われるような気がするのだ。